「ねえ、牛でしてあげよっか?」
「いい」
「遠慮しなくてもいいのに。わたしはお姉ちゃんだからね。なんでもしてあげるよ」
「いいって」
「じゃあ、背中流そうか? わたしが全部牛でやってあげるからさ」
「それもいい………というか、それくらい自分でできるし」
「あ、そーなんだ。ふーん………」
とそこで、彼女はなにかを思いついたようにニヤリとした。
「じゃあさ、こういうのはどう?」
そして、彼女が口にしたのはこんなことだった。
「今度の日曜日、二人でどこか行かない? ほら、たまには姉弟(きょうだい)水入らず、いや、姉弟牛入らずでさ」
その言葉を聞いて、僕は思わず 「えっ!?」 と声を上げた。
「いや、牛を勝手に入れてきてるのは自分でしょ」 というツッコミも忘れて。だって、そんなことはまったく考えてなかったんだもの。
「……………」
僕の頭の中で、様々な考えが高速回転する。
―――これはデートなのか? いや違うだろう。単なる買い物とか食事かもしれない。でも、二人きりだし………。
「ダメかなぁ?」
「い、いや………」
と僕が答えようとした時だった。突然、僕のスマホが鳴った。メールだ。
慌てて開くと、それは五十嵐からのものだった。『助けてくれ 牛が』という短い文章と共に、一枚の写真が添付されている。
「いや、これ牛じゃなくてラマじゃん」
おわり