発端となったのは、一匹の老いた柴犬だった。
いつものように散歩に連れ出されていた時のこと。偶然通りかかった野良猫が発した「ミャア」という鳴き声を聞いた瞬間、何となく心惹かれた彼は、思わずその場で立ち止まった。
「ああっ! 大変だ!」
飼い主の声に我に返った時にはもう遅かった。彼の股間からは大量の尿がほとばしり出て、地面を濡らしてしまっていたのだ。そして、その光景を見た通行人がスマートフォンで撮影した動画は瞬く間に拡散され、インターネット上には
「この犬、嬉ションしてるwww」
「俺もやったことあるわー」
「これは笑えるww」
「これって、どうやって止めさせるんですか?」
などという言葉とともに、多くの動画や画像がアップされたのであった。この出来事がきっかけで、ネット上には『嬉ション』という言葉が氾濫することとなった。
そして、いつしかこの言葉は犬だけではなく、人間にも適用されるようになっていった。例えば、
「うおおお! 俺、今から嬉ションするぞ!!」
と宣言した男が、本当に嬉ションをしたとか、あるいは、
「私、今日は嬉ションしちゃいそう……」
と言って実際に嬉ションをしてしまった女性がいたとかいう話もある。
いずれにせよ、人々は嬉ションに対して一種の憧れを抱くようになりつつあった。そんな中、一人の青年が嬉ションについて語る動画を配信したところ、それが大きな反響を呼ぶこととなった。その内容は以下のようなものだった。
「嬉ションか?欲しけりゃくれてやる。探せ!排泄の全てをそこに置いてきた」
世はまさに、大嬉ション時代。